ミラノのレオナルドの最後の晩餐:芸術・歴史・感動をめぐる旅
- はじめに
- レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミラノへ
- ルドヴィーコ・イル・モーロへの有名な手紙
- サンタ・マリア・デッレ・グラツィエとドミニコ会の背景
- 最後の晩餐の制作
- 技法とその脆さ
- 戦火を乗り越えた修復の歴史
- 構図・感情・象徴性の読み解き
- 訪問のヒントと予約情報
はじめに
ミラノの旧ドミニコ会修道院の壁の裏に、ルネサンスの傑作「最後の晩餐」が静かに佇んでいます。これは単なる絵画ではなく、歴史と革新、そして深い感情が込められた物語です。実際にその場を訪れた体験から、この記事では作品の背景と私自身の印象をお伝えします。
レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミラノへ
1482年頃、ダ・ヴィンチは芸術の都フィレンツェを離れ、より実践的な機会を求めてミラノへ移りました。当時のミラノは、芸術だけでなく軍事・工学分野でも才能を発揮できる場所でした。レオナルドはルドヴィーコ・スフォルツァ公(通称イル・モーロ)の庇護のもと、新たな挑戦に臨みました。
ルドヴィーコ・イル・モーロへの有名な手紙
ダ・ヴィンチは自らの芸術家としての才能ではなく、技術者・建築家・軍事発明家としての能力をアピールした手紙をスフォルツァに送りました。橋や要塞、大砲、戦車などの設計を列挙し、絵画はなんと9番目に記されています。
「私は大理石、青銅、粘土による彫刻も制作できます。また絵画においても、他の誰にも劣りません。」
この控えめな一言が、後に世界で最も有名な宗教画の一つを生み出すことになります。
サンタ・マリア・デッレ・グラツィエとドミニコ会の背景
サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会はスフォルツァ家と深い関係を持つ修道院で、レオナルドが描いた「最後の晩餐」はその食堂の壁にあります。この作品は、キリスト教の儀式と修道士たちの食事の時間を結びつける象徴的な意味を持っていました。
教会自体は、ドナート・ブラマンテによって設計された部分もあり、ゴシックと初期ルネサンスの融合が見られます。
最後の晩餐の制作
制作は1495年頃に始まり、1498年に完成。レオナルドは伝統的なフレスコ画ではなく、油彩とテンペラを乾いた漆喰の上に使うという実験的な技法を選びました。この方法は、表情や細部を丁寧に描くのに適していました。
イエスが「あなたがたのうちの一人が私を裏切る」と告げる瞬間が描かれ、使徒たちの驚きや混乱が、3人ずつのグループで描かれています。
- バルトロマイ、ヤコブ(小)、アンデレ:驚いて立ち上がる、唖然とする、手を挙げて否定する様子が見られます。
- ユダ、ペテロ、ヨハネ:ユダは陰に隠れ、銀貨の袋を握り、ペテロはナイフを手にしヨハネに近づきます。
- イエス:中央で静かに座り、三角形の形を成して神性と安定を象徴しています。
- トマス、ヤコブ(大)、フィリポ:トマスは指を立て、ヤコブは腕を広げ、フィリポは自分を指さします。
- マタイ、タダイ、シモン:三人は互いに向き合い、激しく語り合っています。
技法とその脆さ
レオナルドの選んだ技法は革新的であった一方、非常に不安定でした。絵具が乾いた壁面にうまく定着せず、完成から数十年で劣化が始まりました。湿気や大気汚染、不適切な修復により、絵は何度も危機を迎えました。
それでも彼の技術探求の精神は、光と陰、感情の微妙な表現において新たな可能性を切り開きました。
戦火を乗り越えた修復の歴史
第二次世界大戦中、教会は爆撃を受けましたが、「最後の晩餐」のある壁は砂袋や補強で守られ、奇跡的に生き残りました。
1978年から2000年にかけて、ピニン・ブランビッラ・バルチロンによる大規模な修復が行われました。再描画ではなく、残された原画を丁寧に洗浄・安定化させるもので、X線や顕微鏡などの最新技術が活用されました。
構図・感情・象徴性の読み解き
この作品は単なる宗教画ではなく、心理的なドラマでもあります。窓からの光に包まれたイエスを中心に、視線が自然と集まる構図がとられています。
イエスの右隣の人物は、しばしばマグダラのマリアと誤解されますが、実際は最も若い使徒・ヨハネです。その中性的な顔立ちが長年議論を呼んできましたが、歴史的には一致しています。
線遠近法が用いられ、すべての線がイエスの頭部に収束し、彼の存在が精神的中心であることを際立たせています。
訪問のヒントと予約情報
最後の晩餐(Cenacolo Vinciano)はイタリアで最も人気のある文化遺産の一つです。作品の保存のため、見学は15分間・少人数制で行われ、事前予約は必須です。
- 公式サイト:cenacolovinciano.org
- 予約方法: 毎月チケットが更新され、すぐに完売します。
- 無料見学: 毎月第1日曜日に無料で入場できる日があります(要確認)。
- 語学のヒント: イタリア語で電話すると、キャンセル枠が見つかる場合もあります。
修道院は、私たちのイタリア語学校 Il Centro から徒歩数分の距離にあり、学生にとって文化体験の一環として最適な訪問先です。すぐ隣のサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会も無料で入場でき、見逃せない名建築です。